事故で車が全損になっても、ローンの返済義務は原則として残ります。最初にやるのは、ローン残債から受け取れる車両保険金を引いて、不足額を出すことです。不足額が分かれば、次の車に使えるお金も見えてきます。
この記事は、事故直後の連絡や示談の流れではなく、お金の側に絞ります。残債の確かめ方、保険金の上限、所有権留保の注意点、不足額を含めた次の車の資金計画を、仮の数字で順に確認します。
目次
式はこれだけです。不足額=ローン残債−車両保険金(または賠償金)。結果がマイナスなら余りが出て、プラスならその分を別の資金で埋めることになります。
ここで混ざりやすいのが、保険金の出どころです。自分の車両保険から出るお金と、相手に過失がある場合に相手側の対物賠償から出るお金は、別の仕組みです。上限の考え方もそれぞれ違うので、後の節で分けて説明します。
手元の返済予定表や通帳の引き落とし額から残債を推測すると、ずれることがあります。確かめる窓口は、ローンを契約した金融機関、ディーラー、信販会社です。「全額を返済するといくら必要か」と「いつ時点の金額か」を聞いてください。
りそな銀行のマイカーローンの借換えでは、既存ローンの全額返済に必要な金額と完済予定日が書かれた残高証明書が求められます(りそな銀行のよくあるご質問より)。同じ種類の書面を、ローン会社に頼んで出してもらうのが確実です。利息は日割りで増えるため、全額返済の金額は日付によって変わります。
あわせて、車検証の所有者欄も見ておきます。ローン会社や販売店の名前が書かれていれば、所有権留保がついています。この場合の手続きは後で触れます。
車両保険は、契約時に設定した保険金額を限度に支払われます。三井住友海上の説明では、全損の場合、買い替えや修理をしなくても車両保険金(保険価額)が支払われます。ただし、新車特約をつけている場合は、買い替えか修理が支払いの条件になります。
「保険金額を高めに設定していたから、その金額が出るはず」とは考えないでください。実際に出る額は、保険会社の査定と約款で決まります。まず保険証券で保険金額を確認し、事故受付の担当者に「全損と判断された場合の支払額の考え方」を聞くのが順序です。
相手の対物賠償で車の損害が補償される場面では、基準は時価額です。日本損害保険協会のQ&Aには、時価額が100万円の車の修理費が150万円かかっても、賠償の上限は100万円になるという例があります。三井住友海上は、時価額を「同じ車種・年式・型で、使用状態や走行距離が同程度の車を中古車市場で取得するのに必要な額」とし、一般にはレッドブックの市場価格を基準に認定するとしています。
ローンの残債は時価額とは無関係に決まります。新しい車ほど、そして返済の初期ほど、残債が時価額を上回りやすいことを覚えておいてください。
次の条件で試算します。実際の車や契約とは違うので、自分の数字に置き換えて使ってください。借入額300万円、年3.5%、72回の元利均等返済で、24回返済したところで全損になったと仮定します。
月返済額は「借入額×月利÷(1−(1+月利)の−回数乗)」で求めます。月利は年利を12で割った値です。残債は「借入額×(1+月利)のk乗−月返済額×((1+月利)のk乗−1)÷月利」で、kは返済済みの回数です。
| 項目 | 金額 | 求め方・前提 |
|---|---|---|
| 月返済額 | 約46,255円 | 300万円・年3.5%・72回 |
| 24回返済後の残債 | 約2,069,028円 | 上の残債の式でk=24 |
| 車両保険金額(仮定) | 1,700,000円 | 査定で全損と判断され、この額が支払われると仮定 |
| 不足額 | 約369,028円 | 2,069,028円−1,700,000円 |
3年弱の返済でも、約37万円の不足が出る計算になります。金額は年利、返済回数、頭金の有無、保険金額で大きく変わります。頭金が少なく、返済期間が長い契約ほど、不足額は出やすくなります。ここでは日割り計算や端数処理を省いた概算で、実際の残債は金融機関の数字が正です。
特約があれば不足額が消える、とは限りません。三井住友海上の例で見ると、次のようになっています。
| 特約 | 支払いの内容 | 確認したい点 |
|---|---|---|
| 全損時諸費用特約 | 車両保険金額の10%(20万円限度)。保険金額が100万円以下なら10万円 | 廃車や買い替えの諸費用が趣旨 |
| 新車特約 | 新車の保険金額を限度に支払い | 買い替えか修理が支払いの条件になる |
| 車両全損時復旧費用特約 | 保険金額100万円以上なら「保険金額+100万円」が限度(100万円未満は2倍) | 盗難は対象外。年数が経った車向け |
上の仮定に当てはめると、全損時諸費用特約は1,700,000円×10%=170,000円で、20万円の限度内です。ただ、この特約は諸費用の補償であり、残債に充てる前提で計画を立てるのは避けたほうが安全です。復旧費用特約も限度額は上限であって、定額が出るわけではありません。これらはすべて商品・約款で内容が違うため、加入の有無と条件は保険証券と約款で確認してください。
ディーラーローンや信販会社のローンでは、完済まで車の所有者名義がローン会社になる場合があります。オリコのオートローンのページにも、所有者名義が「オリエントコーポレーション」で登録される場合があり、支払い完了後に名義を変更できると書かれています。
東京海上日動のよくあるご質問には、所有権留保付きの売買契約の車では、車両保険金の支払いの際に、実際の車両所有者である売主からの請求が必要と書かれています。つまり、保険金の受け取りや廃車の手続きで、ローン会社の書類や同意が必要になる可能性があります。事故のあとにまず連絡する先は、保険会社と並んでローン会社です。具体的な必要書類は、各社で異なります。
不足額が出たら、次の車の費用と合わせて必要額を出します。式は必要額=次の車の支払総額+不足額−手元資金です。次の車を中古で支払総額180万円、手元資金を20万円と仮定すると、1,800,000円+369,028円−200,000円=1,969,028円になります。
| ケース | 借入額 | 年率 | 月返済額(60回) | 利息の合計 |
|---|---|---|---|---|
| 不足額を含める | 1,969,028円 | 3.0% | 約35,381円 | 約153,823円 |
| 不足額を含める | 1,969,028円 | 4.5% | 約36,709円 | 約233,490円 |
| 不足額がない場合 | 1,600,000円 | 3.0% | 約28,750円 | 約124,994円 |
3.0%で比べると、不足額の分だけ月返済額は約6,600円増えます。年率が1.5ポイント違うだけで、利息の合計は約8万円変わります。金利は仮定で、実際の利率は金融機関の審査と商品で決まります。
注意したいのは、旧ローンの返済と新ローンの返済が重なる期間です。保険金が入るまでは旧ローンの返済が続き、先に新車の分割が始まると二重の負担になります。保険金の入金予定時期と、旧ローンの返済日を並べて確認しておきましょう。
金融機関によっては、既存ローンの対象車を売却する場合に借換えを受けられないとしています。りそな銀行がそうです。全損で車がなくなる場合の扱いは、借換えを考える金融機関に先に聞いてください。
次の車の借入先は、大きく銀行などのマイカーローンと、ディーラーや信販会社のローンに分かれます。優劣は一概に決まらず、見るべき点が違います。
| 観点 | 銀行などのマイカーローン | ディーラー・信販会社のローン |
|---|---|---|
| 手続き | 自分で事前審査を申し込む。書類は金融機関ごとに異なる | 販売店で車の契約と同時に進められる |
| 所有者名義 | 商品による。担保不要の商品がある | 所有権留保がつく場合がある |
| 諸費用・不足額 | 資金使途に諸費用を含める商品がある。旧ローンの不足額を含められるかは商品次第 | 不足額の扱いは販売店・信販会社ごとに異なる。見積書で確認 |
| 確認点 | 利率、保証料込みか、繰上返済手数料 | 実質年率、分割手数料の総額、完済時の手続き |
全損のあとは時間も気持ちも余裕がなく、販売店の提案をそのまま受け入れたくなります。ただ、不足額を上乗せしたローンは、借入額も利息も増えます。複数の条件を同じ前提(借入額、回数、頭金)でそろえて、総支払額で比べてください。
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