令和8年度の地域別最低賃金は、全国加重平均で1,177円になりました。前年度の1,121円から56円の引上げです。発効日は都道府県ごとに違い、東京や大阪は10月1日でした。一方で、京都は11月16日、岩手と熊本は12月1日、沖縄は12月2日と遅い地域もあります。
発効日以降は、新しい最低賃金額を下回る賃金は払えません。最低賃金法は、使用者に最低賃金額以上の賃金の支払いを義務づけています。違反すると罰金の対象です。すでに発効した地域では、今月の給与計算が新しい額を満たしているかを先に確かめます。
まだ発効していない地域では、発効日までに3つを並行して進めます。対象者と人件費の増加額の計算、価格改定や取引先との単価交渉、助成金と資金の手当てです。この記事では、増加額の計算例と、状況別の対応・相談先を整理します。
目次
厚生労働省の全国一覧から、主な都道府県と発効日が遅い県を抜き出しました。全47都道府県の額と発効日は、出典の一覧で確認できます。
| 都道府県 | 令和8年度の額 | 改定前の額 | 引上げ額 | 発効日 |
|---|---|---|---|---|
| 全国加重平均 | 1,177円 | 1,121円 | 56円 | - |
| 東京(最高) | 1,280円 | 1,226円 | 54円 | 2026年10月1日 |
| 神奈川 | 1,279円 | 1,225円 | 54円 | 2026年10月1日 |
| 大阪 | 1,231円 | 1,177円 | 54円 | 2026年10月1日 |
| 愛知 | 1,195円 | 1,140円 | 55円 | 2026年10月1日 |
| 福岡 | 1,114円 | 1,057円 | 57円 | 2026年10月4日 |
| 広島 | 1,141円 | 1,085円 | 56円 | 2026年10月11日 |
| 宮崎(最低) | 1,085円 | 1,023円 | 62円 | 2026年10月24日 |
| 山梨・徳島・愛媛・大分 | 1,113円・1,103円・1,093円・1,096円 | 1,052円・1,046円・1,033円・1,035円 | 61円・57円・60円・61円 | 2026年11月1日 |
| 佐賀(引上げ額が最大) | 1,095円 | 1,030円 | 65円 | 2026年11月15日 |
| 京都 | 1,180円 | 1,122円 | 58円 | 2026年11月16日 |
| 岩手・熊本 | 1,090円・1,092円 | 1,031円・1,034円 | 59円・58円 | 2026年12月1日 |
| 沖縄 | 1,086円 | 1,023円 | 63円 | 2026年12月2日 |
2026年10月10日の時点で、27都道府県はすでに発効しています。残る20県は10月11日以降の発効です。発効日が違うのは、最低賃金法14条の仕組みによります。改正の決定は公示から30日を経過した日に効力を生じます。それより後の日を決定で定めれば、その日から有効です。
最低賃金法4条1項は、最低賃金額以上の賃金の支払いを使用者に義務づけています。同条2項により、最低賃金額に届かない労働契約の部分は無効です。無効になった部分は、最低賃金と同じ定めをしたものとみなされます。契約書の時給が古いままでも、発効日以降の労働には新しい額で払う必要があります。
地域別最低賃金を下回った場合の罰則は、40条の50万円以下の罰金です。42条の両罰規定により、法人や事業主にも罰金刑が科されます。すでに発効した地域で差額が出ていたら、気づいた時点で差額を払い、給与計算の設定を直してください。
最低賃金と比べる賃金には、算入しないものがあります。厚生労働省は、次の賃金を除いて比べると案内しています。
月給制の人は、月給を月の所定労働時間数で割って時間額に直します。所定労働時間数が月によって違う場合は、1年間の1か月平均を使います(最低賃金法施行規則2条)。通勤手当込みで時給を考えていると、見かけより低くなることがあります。
パート5人が改定前の最低賃金額で働き、1人あたり月80時間働く店を仮定します。1時間あたりの増加は引上げ額と同じです。式は「5人×80時間×引上げ額」で、年間は12か月分です。発効日が月の初日の3都県を選び、年度末の2027年3月31日までの月数も出しました。
| 地域(発効日) | 引上げ額 | 月の増加額 | 年間の増加額 | 発効日から年度末まで |
|---|---|---|---|---|
| 東京(10月1日) | 54円 | 21,600円 | 259,200円 | 6か月で129,600円 |
| 山梨(11月1日) | 61円 | 24,400円 | 292,800円 | 5か月で122,000円 |
| 熊本(12月1日) | 58円 | 23,200円 | 278,400円 | 4か月で92,800円 |
この試算は所定労働時間内の基本給だけを対象にしています。端数は出ません。時給が改定前と改定後の額の間にある人は、増加額が小さくなります。たとえば熊本で時給1,060円の人は、1時間32円、月80時間で2,560円の増加です。
実際の負担は、この試算より大きくなる場合があります。最低賃金近くの人だけを上げると、少し上の時給だった人との差が縮みます。差を保つために上げれば、その分も負担に加わる計算です。社会保険や雇用保険に加入している人がいれば、賃金に連動する会社負担の保険料も増えますが、本試算には含めていません。
自社で計算するときは、まず対象者の名簿を作ります。最低賃金と比べる時間額、月の所定労働時間、発効日を並べ、新しい額との差を出します。その差額の合計が、毎月の資金繰り表に足す金額です。
飲食店や小売店のように一般の消費者に売る事業では、自社の価格改定で吸収します。メニューや価格表を変えるには、印刷や告知の準備期間が必要です。発効日から逆算して改定日を決めておけば、資金を持ち出す期間は短く済みます。
企業から清掃や製造、配送などの委託を受けている事業者は、取適法(中小受託取引適正化法)を使える場合があります。取適法は2026年1月1日に施行されました。同日以降に発注された対象取引では、中小受託事業者からの価格協議の求めに応じず、一方的に代金を決めることが禁止されています。
公正取引委員会は、協議を明示的に拒む場合に限らないと説明しています。協議の求めを無視したり、繰り返し先延ばしにしたりして協議を困難にさせる場合も違反です。改正で、資本金の基準に当たらない場合でも、従業員数の基準に当たれば対象になりました。従業員数の基準は、製造委託等で300人、役務提供委託等で100人です。自社の取引が対象かどうかは、公正取引委員会の資料で確かめます。
交渉の時期の目安には、中小企業庁の「価格交渉促進月間」があります。4月と10月に価格を改定する企業が比較的多いため、その前月の3月と9月が月間です。2026年9月の月間は終わったため、次は2027年3月です。月間を待たず、発効日と増加額を示して早めに協議を申し入れてください。取引上の悩みは、国が全国48か所に設置した「取引かけこみ寺」に無料で相談できます。
業務改善助成金は、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げ、生産性向上の設備投資等をした中小企業に費用の一部を助成する制度です。令和8年度の申請期間は、9月1日から、地域別最低賃金の発効日の前日か11月30日のいずれか早い日までです。10月1日発効の地域では、すでに9月30日で締め切られました。
発効日がまだ先の地域では、申請できる期間が残っています。申請受付は各都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)が担当しています。審査があり、要件を満たさなければ交付されません。助成額の計算や立替資金の考え方は、業務改善助成金 令和8年度の申請期限と立替資金の記事で詳しく解説しています。
増加額を計算したら、自社の状況に合わせて次の対応を選びます。複数に当てはまる場合は、期限が早いものから進めてください。
| 自社の状況 | 対応 | 相談先 | 時期 |
|---|---|---|---|
| 引上げ後も利益で吸収できる | 給与計算の設定と雇用契約書の時給を直す。差額の未払いがないか確認する | 社会保険労務士、労働基準監督署 | 発効日の前まで(発効済みなら今月の給与計算から) |
| 値上げまで数か月かかる | 増加額を資金繰り表に入れ、値上げまでの不足額を出す。手元資金で足りなければ取引金融機関に早めに相談する | 取引金融機関、税理士 | 発効日の1〜2か月前 |
| 受注先との単価交渉が必要 | 増加額の根拠を示して価格協議を申し入れる。応じてもらえなければ相談窓口を使う | 取引かけこみ寺、公正取引委員会 | 発効日の前。次の価格交渉促進月間は2027年3月 |
| 人件費増で借入の返済が苦しくなりそう | 延滞する前に、今の借入先へ返済条件の見直しを相談する。新たな借入はその後に検討する | 今の借入先の金融機関、認定支援機関 | 返済日より前のできるだけ早い時期 |
返済が苦しくなりそうなときは、延滞する前に今の借入先へ相談してください。返済条件の見直しで足りない場合に、新たな資金の手当てを考える順番です。賃金の扱いや契約の個別判断に迷う場合は、社会保険労務士や弁護士に相談してください。
発効日まで時間がない場合は、賃金の支払いを最優先にします。そのうえで、値上げや単価交渉が実を結ぶまでの資金の不足額を、借入先に数字で示して相談します。運転資金としていくら借りるかの考え方は、運転資金の借入目安の記事で数値例とともに整理しました。
値上げが浸透するまでの人件費の持ち出しを、新たな借入で補う選択肢を比べたい場合もあるでしょう。Tasukari(タスカリ)は、CrowdLoan(クラウドローン)が運営する、売上500万〜3億円クラスの小規模事業者向けの融資マッチングサービスです。スマホで3分程度の入力で、保証会社の事前審査により借りられる見込みを先に確認でき、結果を見た銀行から融資条件の提案が届きます。診断・事前審査は無料で、融資が実行された場合は銀行所定の金利がかかります。審査は保証会社・金融機関が行い、CrowdLoanが融資の可否や条件、提案を約束するものではありません。
調査日:2026年10月10日。最低賃金額・発効日・助成金の申請期限などは変わる場合があります。最新の内容は各公式ページで確認してください。
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