会社の代表者が交代しても、前経営者が金融機関と結んだ保証契約は自動的には消えません。保証契約は前経営者個人と金融機関との契約で、外すには金融機関との見直しの手続きが要ります。金融庁の相談窓口の案内にも、事業承継の後に「旧経営者に保証が残ったまま」という相談例が載っています。
一方で、後継者が保証を当然に引き継ぐわけでもありません。「経営者保証に関するガイドライン」の特則は、前経営者と後継者の双方から保証を取る二重徴求を原則として行わないよう金融機関に求めています。信用保証協会の事業承継特別保証や、日本政策金融公庫(以下、公庫)の事業承継・集約・活性化支援資金など、経営者保証なしで借りられる制度もあります。
最初にやることは、承継の計画段階で取引金融機関に保証の扱いを相談することです。どの制度も金融機関や保証協会の審査があり、保証を外せると約束されるものではありません。この記事では、承継時に既存の借入金と保証がどう扱われるかと、準備の手順を一次資料で確認した範囲で整理します。
目次
会社の借入金は会社の債務で、経営者保証はそれを経営者個人が保証する契約です。登記上の代表者が変わっても、契約の当事者である前経営者の保証はそのまま続きます。
特則は、前経営者について「保証解除に向けて適切に見直しを行うことが必要」と金融機関に求めています。引退した前経営者は、実質的な経営権を持つなどの事情がなければ第三者に当たる可能性があるからです。特則は、令和2年4月1日施行の改正民法で第三者保証の利用が制限されることも理由に挙げています。
ただし、見直しの結果として保証が続く場合もあります。特則によると、金融機関は前経営者の株式保有状況、代表権の有無、既存債権の保全状況などを見て、保証の必要性を判断することとされています。役員でも議決権の過半数を持つ株主でもない前経営者に保証の継続を求める場合は、より慎重な検討が必要とされています。株式と代表権をいつ移すかは、保証の見直しとあわせて計画しましょう。
「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」は、日本商工会議所と全国銀行協会が事務局を務める研究会が策定しました。令和2年4月1日から適用されています。金融機関に求める対応は、二重徴求の扱い、後継者の保証、債務者への説明の3つです。
1つ目は、原則として前経営者と後継者の双方から二重に保証を求めないことです。例外として、前経営者の死亡後に相続確定まで一時的に重なる場合や、返済が事実上延滞している先で特段の理由がある場合など4つの類型が挙げられています。例外で二重に求めるときは、理由と保証なしの場合の融資条件を双方に説明することが必要です。代表交代前の借入は前経営者、交代後の新規借入は後継者だけが保証する形は、二重徴求に当たりません。
2つ目は後継者の保証です。特則は「後継者に当然に保証を引き継がせるのではなく」、保証の必要性を改めて検討するよう求めています。やむを得ず求める場合も、資金使途に応じた保証金額の限定や、財務が改善したら効力を失う解除条件付保証契約などを検討する対象です。
3つ目は説明です。保証が必要な場合、金融機関はどの要件が足りないのか、どう改善すれば解除の可能性が高まるのかを個別に説明することが求められます。会社側にも、法人と経営者の資産の区分、財務基盤の強化、試算表などによる情報開示が求められます。株式や経営権が移ったら、速やかに金融機関へ報告することも会社側の役割です。
全国信用保証協会連合会(以下、全信保連)の案内によると、事業承継特別保証は経営者保証が不要の保証制度です。経営者保証付きの既存の借入金を借り換えて、保証なしにすることもできます。借換えの対象は保証協会付きの借入だけでなく、個人保証付きのプロパー借入も含みます。
対象は、保証申込受付日から3年以内に事業承継を予定し、事業承継計画を持つ法人です。承継後3年以内の法人も対象ですが、令和2年1月1日から令和7年3月31日までに承継した場合に限られます。令和7年4月以降に承継した会社は承継後の対象に入らないため、承継前に申し込めるかを早めに確かめる必要があります。取扱いは信用保証協会に確認してください。
財務の要件は、資産超過であること、EBITDA有利子負債倍率が10倍以内であること、法人と個人が分離されていること、返済を緩和している借入金がないことの4つです。保証限度額は2億8,000万円、保証期間は分割返済で10年以内(据置1年以内)とされています。保証料率は0.45%~1.90%、専門家の確認を受けた場合は0.20%~1.15%です。ここでいう専門家は、経済産業省の委託などを受けて事業承継の支援事業を行う者が雇用する専門家です。申込みは取引のある金融機関経由です。
EBITDA有利子負債倍率は「(借入金・社債-現預金)÷(営業利益+減価償却費)」で計算します。次の表は仮定の数字で計算した例です。
| 項目(仮定) | A社 | B社 |
|---|---|---|
| 借入金 | 3,000万円 | 3,000万円 |
| 現預金 | 800万円 | 800万円 |
| 営業利益 | 150万円 | 50万円 |
| 減価償却費 | 100万円 | 100万円 |
| EBITDA有利子負債倍率 | 8.8倍(10倍以内) | 約14.7倍(10倍超) |
倍率は小数第2位を四捨五入しました。B社のように要件を超える場合は、承継までに利益を伸ばすか借入金を減らすことが課題になります。
既存の保証付き借入3,000万円を、事業承継特別保証で借り換える場合を仮定します。料率の区分は審査で決まるため、案内にある下限と上限で計算しました。年額は「借入額×料率」、10年の目安は「10年・元金均等返済として毎年の年初残高×料率」の合計です。1円未満は切り捨てています。
| 保証料率 | 初年度の年額 | 10年の目安 |
|---|---|---|
| 0.45%(通常の下限) | 135,000円 | 742,500円 |
| 1.90%(通常の上限) | 570,000円 | 3,135,000円 |
| 0.20%(専門家確認ありの下限) | 60,000円 | 330,000円 |
| 1.15%(専門家確認ありの上限) | 345,000円 | 1,897,500円 |
上限どうしで比べると、専門家の確認を受けた場合の10年の目安は1,237,500円少なくなります。実際の保証料は各信用保証協会の計算方法で決まるため、総額は金利とあわせて金融機関の見積りで確認してください。
公庫の国民生活事業では、事業承継・集約・活性化支援資金の融資限度額は別枠7,200万円です。返済期間は設備資金が20年以内、運転資金が10年以内で、いずれも据置期間は5年以内です。対象には、後継者と事業承継計画を作っている会社や、事業の承継・集約を行う会社などが含まれます。
この資金の利用者は、公庫の経営者保証免除特例制度の要件に当てはまります。特例を使うと経営者の保証が免除され、上乗せ利率はありません。ただし、経営状況などから返済が可能と見込まれる法人であることが前提です。対象者には、承継時に保証免除を申し入れたことで取引金融機関からの調達が難しくなった方も挙げられています。公庫も、審査の結果で希望に沿えない場合があると明記しています。
保証の扱いは、承継の形よりも借入の種類で窓口が分かれるのが実情です。次の表に、一次資料で確認できた制度を当てはめました。保証を外せるかは金融機関・保証協会・公庫の審査で決まり、表のとおりになる保証はありません。
| 承継の形と借入 | 保証の扱いの選択肢 | 準備すること | 相談先 |
|---|---|---|---|
| 親族内・従業員承継/保証協会付き | 事業承継特別保証で借り換えて保証なしにする | 事業承継計画、資産超過とEBITDA倍率の確認 | 取引金融機関、信用保証協会 |
| 親族内・従業員承継/プロパー | 特則に沿った保証の見直し、事業承継特別保証での借換え | 役員貸付金の解消、試算表の定期提出 | 取引金融機関、事業承継・引継ぎ支援センター |
| 親族内・従業員承継/公庫 | 事業承継・集約・活性化支援資金と経営者保証免除特例 | 事業承継計画書、返済計画 | 公庫の支店 |
| 第三者への承継(M&A) | 前経営者の保証の見直し、経営承継円滑化法の認定を前提とする保証制度 | 譲渡契約前に保証の扱いを金融機関と確認 | 事業承継・引継ぎ支援センター、金融機関 |
全信保連は、M&Aによる承継の資金に使える経営承継準備関連保証と、従業員など事業を営んでいない個人による買収向けの特定経営承継準備関連保証も案内しています。どちらも経営承継円滑化法に基づく経済産業大臣の認定が要件です。M&Aでの保証の扱いは契約条件にも関わるため、弁護士や認定支援機関への相談も検討してください。
返済が遅れている借入がある場合は、承継の相談より先に、その金融機関へ返済状況を相談してください。特則では、延滞している先で特段の理由がある場合が、二重徴求の例外の類型に挙がっています。
事業承継・引継ぎ支援センターは、国が設置する公的な相談窓口です。中小企業基盤整備機構の案内によると、親族内承継から第三者への引継ぎまで、事業承継の相談に対応しています。事業承継特別保証の保証料率の軽減に要る専門家の確認をどこで受けられるかは、信用保証協会か取引金融機関に確かめてください。
金融機関の説明に納得できない場合は、金融庁が令和8年5月1日に開設した「M&A・事業承継時における経営者保証情報ネットワーク」へ相談シートを送る方法もあります。相談できるのは、保証を負う経営者、後継者、承継後も保証が残る旧経営者などです。このネットワークはあっせんや仲介を行わず、保証の解除を確約するものでもありません。
経営者保証なしで借りる一般的な要件は経営者保証なしの融資の要件で、保証協会付き融資とプロパー融資の違いは信用保証協会付き融資とプロパー融資の違いで解説しています。借換えの総費用の比べ方は事業融資の借り換えの比較を、承継費用の補助金は事業承継・M&A補助金16次公募を参照してください。
承継の計画を取引金融機関と相談したうえで、承継後の運転資金や借換えの条件をほかの銀行とも比べたい場合があります。Tasukari(タスカリ)は、CrowdLoan(クラウドローン)が運営する小規模事業者向けの融資マッチングサービスです。スマホで3分程度の入力で保証会社の事前審査を受けられ、結果を見た銀行から融資条件の提案が届き、金利や返済期間を比べられます。診断と事前審査は無料で、融資が実行された場合は銀行所定の金利がかかります。審査は保証会社・金融機関が行い、CrowdLoanが融資の可否・条件・提案を約束するものではありません。
調査日:2026年10月10日。保証制度の要件・料率・対象期間や融資条件は変わる場合があります。申し込む前に、各機関の公式ページや取引金融機関で最新の内容を確認してください。
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