2024年11月27日
中国の自動車市場は、今や世界最大といっても良い規模にまで成長しており、中国自動車工業協会(CAAM)が1月11日に発表した2023年の自動車販売台数は約3,009万台となっています。
また、EVを含む新エネルギー車の販売台数は約950万台となっており、EVだけを見ても約669万台と圧倒的です。
このような数字を見る限り、中国はEV市場を席巻している状況にありますが、なぜここまで中国でEV市場は成長するに至ったのでしょうか。
この記事では、中国がEV市場を席巻している理由について、その背景にあるものや将来性に触れつつ解説します。
目次
中国のEV市場が成長してきたのは、決して偶然の産物ではなく、中国という国が成長する方向性を見極めた上で先行投資を続けてきた結果の賜物といえます。
以下、中国がEV市場を席巻している理由について、その背景にあるものを解説していきます。
かつての中国は、エンジンなど「内燃機関」の自動車製造については大国といってよい規模ではあったものの、すでに自国の自動車産業が下火となっており、海外のメーカーに対抗できるような国内メーカー・ブランドは存在していない状況でした。
そこで、中国は日本を含む海外の自動車メーカーに勝つことを、内燃機関(エンジン)という分野ではいったんあきらめました。
その代わりに、中国政府はまったく新しい分野への投資を2000年代初頭からスタートすることとなり、その対象がEVでした。
政府は経済計画におけるEVの優先順位を高め、これまで自国で培われた自動車サプライチェーン、製造業のスキル、安価な商品をEV産業に転用し、やがてEV先進国と呼ばれるまでに市場を席巻するようになったのです。
中国政府だけでなく、中国国内の自動車産業に属する企業もまた、将来への危機感を抱いていたことは想像に難くありません。
そのため、中国のEV企業は、これまでの自動車産業における慣行も見直しています。
中国のEV企業が成長した要因の一つに、従来の自動車産業において一般的だった「外注生産」からの脱却があげられ、大手企業は部品を自社で生産する内製化方式を採用して急成長を遂げました。
加えて、EV開発・生産・販売のほか、海外運送向けの船舶建造など、あらゆる供給網を内製化しており、競争力を高めています。
その他にも、アジア各国や東欧諸国などで工場を稼働させたり、研究開発への投資額を拡大したりと、更なるEV普及のための動きを強めています。
実は、中国にはバッテリーのみで走るEVだけでなく、ガソリンと電気の両方の動力で走行できる「PHEV(プラグインハイブリッド自動車)」の生産・販売に注力しているメーカーも存在します。
その背景には、ミドルクラスEV化の世界的な遅れがあります。
ミドルクラスに分類される車は、コストと実用性のバランスが魅力につながるため、ユーザーの判断もシビアになりがちです。
具体的には、走行性や居住性はもちろん、車の装備に関してもクラス相応のものを用意しなければ、ユーザーが購入を見送る可能性が高いのです。
このような状況下で、ミドルクラスEVにこだわることなく、中国メーカーはPHEVを“推す”戦略を立てました。
その結果、同じカテゴリに属する日本車のシェアを奪うまでに売上を伸ばし、中国市場においてはその合理的な選択が評価される結果となりました。
海外市場への進出を見据えるためには、基本的に国内市場からの支持を得る必要がありますが、この点において中国のEVは要件を満たしているといえます。
中国でEVが普及したのは、単純に中国の厳しい消費者の目にかなったことだけでなく、国をあげてEVを推したことが大きな理由と考えられます。
中国のEVと日本を含む他国のEVを比較した際、特に大きな違いとしてあげられるのが、その本体価格・ランニングコストの安さです。
地球温暖化対策として、自動車の性能向上は業界全体の課題として認識される一方、価格や維持費の問題からEVへの乗り換えをあきらめているユーザーは一定数存在しています。
しかし、中国で販売されているEVの場合、なんと本体価格が100万円を切るものもあります。
日本の自動車市場に当てはめて考えると、軽自動車に近い価格帯でEVが購入できることになり、これなら多くの人にとって手が届きやすい価格といえそうです。
また、EVの場合、自宅で夜間充電してから走行すれば電気代も抑えられるでしょう。
EVの特性を理解した上での合理的な判断として、EVが中国国内で普及したものと考えられます。
中国政府がEV購入を優遇していることも、中国国内でEVが普及した一因と考えられます。
中国では、EVを含む新エネルギー車の販売を促進するため、2010年ころから補助金の支給を行っています。
補助金等の購入サポートに関する施策自体は、日本でも似たような制度・仕組みのもとで実施されていますが、中国の場合は「アメとムチ」を使い分けている点に特徴があります。
中国では渋滞緩和・環境保全などを目的として、取得可能な自動車のナンバー数を制限する施策が実施されていますが、EVを含む新エネルギー車においてはこのような制限が免除されるのです。
単純に考えると、中国では内燃機関を採用している車に乗るよりも、EVに乗る難易度の方が低いことになります。
そのような事情が、EV普及を後押ししている点は否めないでしょう。
ナンバー数の制限といった消費者向けの規制だけでなく、中国は自動車メーカーに対しても規制を行っており、その代表的なものが「ダブルクレジット規制」です。
ダブルクレジット規制とは、主にガソリン車の燃費向上の到達指標、新エネルギー車の生産台数指標という2指標につき、達成度合いに応じてクレジットを付与したり、剥奪したりする制度のことです。
分かりやすくいうと、より燃費の良い車を作ること、EVを含む新エネルギー車を一定量製造することを、中国で活動している自動車メーカーや輸入業者に対して課しているのです。
仮にメーカーが燃費目標を達成できなかった場合、より多くのEVを開発してクレジットを貯めるか、クレジットが余っている企業から購入しなければなりません。
中国EVが躍進している状況を見る限り、その将来性は高いものと考えられます。
実際、各国メーカーも中国の状況を見据えた動きを見せていますが、すべての国が中国と同じようにEVを普及させられるかどうかは不透明です。
中国のEVメーカーは、EVの車としての性能だけでなく、運転支援や音声AI・車のスマホ化(通信機能とソフトウエアを活用して継続的に自動車の価値向上を図ること)などにおいても先進的です。
スマホ化が進むと、ユーザーは車を買い替えることなく性能を向上させることができ、自動運転やエンターテイメント機能を充実させることにつながります。
こういった車は「SDV(Software Defined Vehicle)」と称され、日本でも政府がグローバル販売台数において一定のシェアを獲得することを目標に据えていることから、車のスマホ化は自動車業界全体における重要課題であると分かります。
実際、日米欧の自動車メーカーは、中国メーカーの技術を取り込んで、自車ブランドの新型車として供給することも視野に入れている状況です。
EVに対する先行投資の結果、中国にはEVの巨大な国内市場が誕生しました。
それにともない、EV本体や充電設備などが普及する中、バッテリー・インターフェースも含む中国企業同士の競争は激化している状況です。
競争が激化したことにより、中国国内でEVを販売しても利益は出にくい状況となっているものの、本格的に中国製EVが輸入されるようになれば、その影響は甚大なものとなるでしょう。
すでに欧米は中国製EVが自国に輸入されることに危機感を抱いており、2024年10月にはEUが中国製EVに最大45.3%の関税を課す状況が生まれました。
しかし、世界各国が欧米と足並みを揃えるとは限らず、中国製品に関税をかけない方向で考えている国に中国製EVメーカーが入り込めば、欧米以外の国々の市場を席巻する可能性は十分考えられます。
中国国内の状況を見る限り、中国製EVの勢いは強烈であるといえますが、それは「地の利」を活かした結果の一つとも考えられます。
日本と中国の国土を比較した際、中国の国土は日本の約25~26倍にあたり、そこに700万基以上の充電スタンドがあるといわれています。
これに対して日本の充電スポットは3万口以上にとどまり、その規模の違いは圧倒的です。
中国製EVの輸出が本格化することにより、やがて中国製EVが世界を席巻する可能性があることは確かですが、どんな高性能なEVでも「本体だけで走る」ことはできません。
EVが普及するためには、車だけでなく充電インフラの整備も問題となり、すべての国で中国と同様のインフラを整備できるかどうかは不透明です。
この点につき、それぞれの国にマッチした具体的な解決策を提示できるかどうかが、中国製EVの将来を決めることになるでしょう。
日本では、EVの普及こそあまり進んでいないものの、将来的にEVへのシフトを視野に入れているユーザーは一定数存在しています。
国は「2035年までにガソリン車の新車販売を禁止する」ことを目標としているため、未来に備えてEVを購入するなら、早めの決断が有利です。
EVなど、環境に配慮した車を購入する場合、ユーザーは各種補助金を活用することができます。
車両によって補助金額は異なりますが、EVの場合は85万円が上限額となるため、補助金が交付されている間に決断した方がおトクに購入できます。
自宅に充電設備を設けられれば、ガソリンスタンドまで車を走らせることなく充電が可能になるため、あまり遠出をしない人ならその点もメリットに数えられるでしょう。
ただし、EVは補助金を利用したとしても本体価格が高めの傾向にあるため、補助金だけでなくカーローンも活用して支払負担を減らすことが大切です。
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中国がEVの分野で強い存在感を示しているのは、早い段階で内燃機関の分野での成長をあきらめ、次世代のテクノロジーに注力したことが大きな理由の一つです。
メーカーも、競争力を高めるために慣行を見直しつつ、時に合理的な決断を行うことで成長を続けてきました。
その高い技術は、日米欧の自動車メーカーも魅力を感じて取り入れようとするほどです。
近い将来、日本でもガソリン車は廃止される見込みのため、早い段階でEVの購入を検討するのは意外と賢い選択といえるかもしれません。
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